プレスリリース「社団法人情報処理学会」Googleブック検索の提起した課題-その功罪-

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[Googleブック検索の提起した課題-その功罪-]

社団法人情報処理学会
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情報技術の目覚しい発展に伴い、情報の発信・流通が加速化し、世界中があたか
も一つの村であるかのように、顕名匿名にかかわらずコミュニケーションが行わ
れるようになった結果、国境を越え異なる制度間で解決しなければならない問題
が山積している。

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 情報技術の目覚しい発展に伴い、情報の発信・流通が加速化し、世界中があた
かも一つの村であるかのように、顕名匿名にかかわらずコミュニケーションが行
われるようになった結果、国境を越え異なる制度間で解決しなければならない問
題が山積している。

 米Google, Inc.(以下「Google」という)がそのブック検索を通じて惹起した
問題もその典型的なものといえる。

 当学会では、人類の知的資産である絶版の書籍を多大な労力を投入してディジ
タル化し、将来にわたって閲覧可能とするとともに世界に広くアクセス機会を提
供しようとするGoogleの果敢な試みに対して敬意を表したい。これまでにも多く
の国や企業が試みて実現しきれなかった膨大な蔵書を誇るディジタル図書館が眼
前に広がっていることは驚異的なことである。

 しかしながら、Googleの著作権侵害に対して米国作家組合等が提起した訴訟の
和解(以下「本件和解」という)は、世界中の著作権者に対し、日本ばかりでな
く世界中の権利者にとって、大きな問題を孕んでいることを指摘しておきたい。


 第一の問題点は、米国のクラスアクション制度のもと、訴訟の当事者が「オプ
トアウト」の仕組みのネガティブな面を看過していることである。言い換えれば
、多くの権利者がGoogleから許諾を求められることもなく、また、本件訴訟に主
体的に参加する意思もなかったのに、2009年1月5日以前に公に出版された書籍の
著者又は発行者であるというだけで、個々の事情を捨象されて、「クラス」の一
員とされ、わざわざ「オプトアウト」の意思表示を所定の方法で行わない限り、
訴訟(和解を含む)の結果に拘束されてしまうことがなぜ是とされるのか理解に
苦しむ。また、説明文書が36カ国語に翻訳されているとはいえ、本文だけで英文
にして140ページにのぼる膨大な量の和解契約書に目を通してそれを理解する環
境を有しない権利者も多いのではないだろうか。そのような複数国に及ぶ多様な
権利者を含めて一律に一つの土俵で解決を図ったとして、その和解集団(クラス
)全体に訴訟の効果を及ぼす和解が有効といえるか疑問である。

 第二の問題点は、米国のクラスアクション制度や訴訟事情に精通していない権
利者の多くが熟慮のために十分な情報も与えられないまま、短期間のうちに極め
て少数の選択肢のうちからの選択を迫られることである。

 第三の問題点は、今回の本件和解案が米国内でブック検索にアクセスするユー
ザのみを対象としていることの実効性についての疑問である。米国外のユーザに
よる米国内拠点を経由しての迂回アクセスなどの抜け道をすべて排除することと
、インターネット上の他の情報の自由な利用とを両立することは、多くの技術的
事業的困難を伴うものと予想される。この点についての方策の明確化なしには、
和解契約に基づくブック検索アクセスを米国内のみに限定するとの言明の実効性
を疑わざるをえない。

 当学会は、先に述べたようにディジタル化そのものを否定しようとしているの
ではない。しかし、今回の権利侵害は、前人未踏の領域でディジタル化の功を急
ぐあまり計らずも犯した誤りではなく、いわばディジタル化の既成事実を積み上
げ、著作権侵害という障壁を強引に突破しようとした意図的な手法だったと解さ
ざるを得ない。このような手法がまかり通るとすれば、情報技術への不信感をと
どめることはできないだろう。当学会は、米国の訴訟制度はおろか法律全般につ
いては専門としていないが、それだけに合意形成のプロセスを軽視したGoogleの
方法論には賛同しかねる。

 当学会は、今後、ディジタル化が益々加速することが予測される中、「情報シ
ステムの開発と運用によって影響を受けるすべての人々の要求に応じ、その尊厳
を損なわないように配慮する。」という我々の倫理綱領に基づき、今回のGoogl
eの行為と本件訴訟のプロセスに関し、権利者の意思を尊重した合意形成の努力
が更に支払われることを望みたい。

 また、ディジタル化を先導するGoogleに対し、世界を一つの図書館にしてその
管理下に置く代償として、その経営の透明化や相互運用性の確保に必要な技術情
報の開示等の大きな責任を引き受けるための準備ができているかを問い続けてい
きたい。

 米国内限りでのサービスとはいえ、他国の出版物を無断でディジタル化する行
為は権利者から見れば許すことのできない行為であろう。米国の法律上これが許
されると仮定すれば、権利者は出版物を米国に持ち込むことを拒否することにな
りかねない。文化の世界的な交流の促進という観点から、これは嘆かわしいこと
であり、Googleの本意でもないだろう。Googleは、和解契約案を紹介するWebサ
イトの最後で「ブック検索の最も大切な目標は、書籍だけではなく、著者や出版
社が長期にわたって活躍できる機会を提供するサービスとして発展すること」と
述べている。Googleがこの目的を達成するためには、むしろ著者や出版社等が各
自の属する固有の出版文化、伝統、法制度等の事情に従って主体的に行うディジ
タル化の支援を行うことの方が適切ではないであろうか。

(注)この学会の声明は、今後の手続の進展に応じ、当学会やその構成員が限ら
れた選択肢の中から各自が最善と考える解を選ばなければならないことを踏まえ
、和解参加可否に関する各自の選択とは独立した立場から行うものである。
本件についての問合せ

(社)情報処理学会 :著作権担当
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台1-5 化学会館4F
TEL:03-3518-8371  FAX:03-3518-8375 http://www.ipsj.or.jp/
問合せフォーム https://www.ipsj.or.jp/01kyotsu/contact/kaishi.html

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